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東京地方裁判所 昭和48年(合わ)301号 判決 1975年3月26日

被告人 高槻修

昭二四・一・一五生 無職(元中央大学学生)

主文

被告人を懲役三年に処する。

未決勾留日数中三〇〇日を右刑に算入する。

但し、この裁判確定の日から五年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、いわゆる共産同叛旗派に所属していたものであるが、同派としてはいわゆる沖繩返還協定批准については強く反対する立場から、昭和四六年一一月一九日同協定批准阻止闘争を行うことを企図し、同月一八日午前一時ごろより同日午前六時ごろまでの間、東京都新宿区新宿二丁目五五番地十字屋ビル三階マージヤンクラブ「ゾロ」(管理者松尾睦子)において、被告人を含む高橋克行ら同派所属者約二〇名が、同月一九日の同派の前記闘争の具体的行動計画について討議のうえ、五名一組を一小隊とする一六個小隊で構成する攻撃部隊を編成し、各小隊の責任者は火炎びんを青山学院大学理工学部校舎へ受取りに行くこと、同月一九日午後七時三越百貨店新宿店裏に火炎びんを持つて集まり新宿駅東口派出所を火炎びんで襲撃すること等を決定して共謀を遂げ、

第一  前記謀議出席者高橋克行ら約三〇名において、前記謀議に基づき警視庁新宿警察署新宿駅東口派出所(管理者警視総監)および同派出所に勤務する警察官の生命、身体に対し共同して害を加える目的をもつて、昭和四六年一一月一九日午後七時ごろ、同都新宿区角筈一丁目六番地付近路上および同所から通称双葉通りを経て同区角筈一丁目一三番地同派出所付近に至る間の路上において、右目的遂行のための兇器として各自一本または二本(合計約五〇本)の火炎びんを所持して集合移動し、もつて他人の生命、身体および財産に対し共同して害を加える目的をもつて兇器を準備して集合し

第二  前記第一記載の約三〇名において、前記謀議に基づき、共謀のうえ、同月一九日午後七時ごろ、前記派出所東側路上より、警視庁新宿警察署勤務警視庁巡査小林周二ほか四名の警察官が見張り勤務等の職務に従事中の前記派出所に向けてこもごも所携の火炎びん約四五本を投げつける暴行を加えるとともに、右火炎びん中約三五本を同派出所東側外壁に命中させたり、同派出所入口付近に落下させたりして発火炎上させ、もつて右警察官五名の前記職務の執行を妨害するとともに、現に人が存在しかつ在所警察官が住居として使用中の前記派出所(二階建鉄筋コンクリート造り、屋内の一部木造、床面積延べ三九・四六六平方メートル)を焼燬しようとしたが、前記警察官による消火活動等のため、同派出所東側外壁および二階東側内壁の一部を油煙により黒化させたにとどまり、焼燬の目的を遂げなかつた

ものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は刑法六〇条、二〇八条の二第一項前段、罰金等臨時措置法三条一項一号(刑法六条、一〇条により昭和四七年法律第六一号による改正前の罰金等臨時措置法による。)に、判示第二の所為中公務執行妨害の点は刑法六〇条、九五条一項に、現住建造物等放火未遂の点は同法六〇条、一一二条、一〇八条に各該当するところ、判示第二の所為は一個の行為で数個の罪名に触れる場合であるから同法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い現住建造物等放火未遂罪の刑で処断することとし、いずれも有期懲役刑を選択し、判示第二の罪は未遂であるから同法四三条本文、六八条三号により法律上の減軽をし、以上は同法四五前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い判示第二の罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役三年に処することとし、同法二一条を適用して未決勾留日数のうち三〇〇日を右の刑に算入することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から五年間右の刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用して全部これを被告人に負担させることとする。

(公訴事実に対する判断)

本件公訴事実第一の本位的訴因は、

被告人は、警視庁新宿警察署新宿駅東口派出所及び同派出所に勤務する警察官らの生命、身体に対し、多数の学生らと共同して害を加えることを企て、ほか数名の者と共謀のうえ、右目的をひとしくする学生らに対し、攻撃方法およびそのための集合時刻、集合場所などを指示したうえ、多数の火炎びんを配付し、よつて昭和四六年一一月一九日午後七時ごろ、右配付にかかる火炎びん多数を携えた約三〇名の学生らを東京都新宿区角筈一丁目六番地付近路上および同所から通称双葉通りを経て同区角筈一丁目一三番地先同派出所至近にいたる間の路上に集結させ、もつて兇器を準備して多数の者を集合させたものである。

というにある。

前掲各証拠を総合すると、前記「ゾロ」謀議の模様は、先づ高橋克行が「一九日の××(非合法闘争のこと)に関しては俺が総指揮をとる。」と発言して司会役をつとめることとなり、以後午前五時ごろまでは一九日の具体的行動とは離れた抽象的戦術論等が討議され、その間被告人も「他のセクトのゲリラ活動はその闘争を新聞等で宣伝するだけであり、我々のゲリラ活動は大衆を背景にしてできる場所と戦術でやつて行かなければならない。新宿の歌舞伎町を背景にその辺で前の新宿騒乱事件と同じ様な状態をひき起すことも不可能ではないけれども、新宿では地元の人の自警団が組織され、警察もこれにてこ入れをしているので、歌舞伎町で騒乱をひき起すことは一寸無理だろう。」あるいは「出動してきた機動隊を攻撃するだけというのは、いわゆる旧来の戦術であつて、三里塚で切り開いた攻撃的武装闘争を街頭においても貫徹するためには、ただ機動隊が出ればやるのではなく、こちらから派出所や機動隊を積極的に攻撃する必要がある。」と戦術論について発言するなどしていたが、高橋克行より一九日の行動についての具体的提案がなされた後は格別積極的に持兇器集団の結成について自己の意見を述べる等したことは認められず、また被告人が共産同叛旗派の下部組織である反帝戦線の中央大学における有力な活動家であることは認められるが、共産同叛旗派ないしは反帝戦線における組織上の地位については明らかにされず、また本件における中央大学関係小隊の責任者に被告人が就任した旨の証拠も散見されるが、一方被告人とも面識があると認められる梅村城次の検察官調書(昭和四七年二月一五日付)では被告人以外の者が責任者となつた旨否定しており、更に本件実行行為に中央大学関係小隊が参加したこと、また被告人の行為によつて判示第一の集合体に何人かが集合したことを認めるに足りる証拠はない。

してみると、兇器準備結集罪における「結集」とは集合体の形成および共同加害目的の付与について指導的ないしは積極的な役割を果たすことが必要であるところ、被告人自身が現場へ赴いた事実を証明する証拠が存しないことも併せ考えるときは、前記謀議における被告人の言動等を把えて兇器準備結集罪における「結集」に該当するとはなし難く、兇器準備集合罪の共謀共同正犯の限度で刑責を負わせるのが相当である。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人の本件所為は、多くの問題を内蔵し、また多数の国民が反対していたいわゆる沖繩返還協定批准につき強い反対の意思を表現するためになされたものであり、当日は過剰なまでの警備状況よりして意思表明の一手段としてはやむを得なかつたものであつて、結局動機、目的の正当性、手段の相当性ないしは実質的には違法性が少なかつたこと等よりして超法規的に違法性が阻却される旨主張するが、証拠を総合すると、その動機、目的の点はともかく、本件行為は事前の周到な計画に基づき、集団で危険性の極めて高い火炎びんを多数の公衆で混雑する新宿駅東口付近で発火炎上させて警察官の職務の執行を妨害し、派出所を焼燬しようとしたものであつて手段の相当性を著しく逸脱していることは明白であるから右主張は採用しない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤暁 桑原昭熙 大淵敏和)

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